【レポート】加藤登紀子が自分史を振り返るコンサート開催、自伝・ベスト盤CDも発売

加藤登紀子

2018年4月21日に、東京・渋谷区のBunkamuraオーチャードホールで<TOKIKO’S HISTORY 花はどこへ行った 加藤登紀子コンサート>の初日が開催された。デビューの3年目であり、人生の転機である1968年を中心に振り返り、自分史に関わりの深いオリジナル曲、ロシア民謡、シャンソンの名曲の数々が披露されるコンサートとなった。海外の曲のほとんどの日本語詞は加藤自身が手掛けている。このコンサートに合わせて書き下ろされた自伝『運命の歌のジグソーパズル~TOKIKO’S HISTORY-Since1943』(朝日新聞出版)と、自伝に綴られた歌とヒット曲を網羅した2枚組ベストアルバム『TOKIKO’S HISTORY』がともに今月発売されている。

加藤登紀子

1968年は、加藤は東大でデモに参加し、それがきっかけで後に獄中結婚をして夫となる藤本敏夫と出会っている。また、ソ連への40日間の演奏旅行に出かけ、成功を収めた。同年、世界は激動の時代を迎えており、アメリカのベトナムへの攻撃が激化、チェコスロバキアでは民主化運動「プラハの春」、フランスの反体制運動「五月革命」に触発されて世界中で反体制運動が起きるほか、デモや暴動が多発した。「花はどこへ行った」は、1968年に世界的に広まったアメリカの反戦歌で、ロシアの文豪、ショーロホフの小説「静かなドン」の、コサックの子守唄の詞からピート・シーガーが作詞作曲した曲。このコンサートでは、1968年を彷彿させる曲が多く選ばれている。

演奏は、鬼武みゆき(ピアノ)、鳥越啓介(ベース)、はたけやま裕(パーカッション)に、ゲスト奏者として、北川翔(バラライカ)、大田智美(アコーディオン)も参加。コンサートの序曲は、鬼武みゆきによる「雨音」(作曲:鬼武みゆき)のピアノ演奏。その後「悲しき天使」のイントロとともに加藤がステージに登場し、大きな拍手で迎えられる。「美しき5月のパリ」「さくらんぼの実る頃」と3曲続けて歌い上げた。

加藤登紀子

「一昨年はエディット・ピアフの人生を見つめたコンサートをやりました。去年はそこに、美空ひばりさんも加わってもらって、ステージをやったんです。この2年間は加藤登紀子を出さない、ということで来たので、3部作として、TOKIKO’S HISTORYというタイトルをつけてしまいました。長生きの人のヒストリーを語るのは難しい、とわかりましたし、もう一つの問題はまだ生きている、ということ」と笑顔で客席に語り掛けた。「悲しき天使」は、1968年にイギリスのメリー・ホプキンが歌ったシングルがヒットしたが、その50年前にロシアで作られていた、という話も興味深い。「そういう因縁深い歌を、革命の近い50年後に、メリー・ホプキンがポール・マッカートニーのプロデュースで歌ったんです」というのだから驚きである。「美しき5月のパリ」は、1968年の5月革命の中で生まれた曲。「さくらんぼの実る頃」は、映画『紅の豚』で加藤の演じるジーナが歌っており、1871年に世界初の市民の自治が謳われたパリ・コミューンの指導者の一人、ジャンバチスト・クレマンが作詞した曲。パリ・コミューンでは、政府軍が鎮圧行動を起こし、市民軍と戦闘。多くの市民が命を落とした。

加藤登紀子

トークでは、曲の解説と、当時の活動を振り返っての想いなどを聞くことができた。どの曲も、時代のエネルギーや作者たちの熱い思い、加藤との出会いの奇跡を感じられる。1部では、「時には昔の話を」「知床旅情」「ひとり寝の子守歌」「鳳仙花」、ベトナム戦争をテーマに2008年に加藤が作った「1968」そして、「花はどこへ行った」と続いた。

著書の中でも曲にまつわる多くのエピソードが綴られており、「ここでは語り切れないのですが、一つだけ」と言って紹介したのは、今回、バラライカの北川と歌いたいという曲「鳳仙花」の辿った運命。同曲は、朝鮮半島では知らない人はいないといわれる抗日歌。作詞作曲を手掛けた韓国の洪蘭坡(ホンナンパ)は、日本が好きで何度も来日し日本の音楽の勉強をして、ソウルで活躍するも、誤認逮捕で投獄され、激しい拷問を受けたことが原因で44歳で死去。その翌年、ある歌手が歌ったことで「鳳仙花」が有名になり、戦争中、抗日歌として歌われることとなったのだそう。「なんという運命でしょうか」という加藤の言葉が胸に刺さる。この名曲を美しいバラライカの音色と魂のこもった歌唱で聴けるのは貴重な体験である。

加藤登紀子

第2部は、シャンソンの傑作ともいわれる「アムステルダム」、ソ連映画の挿入歌で第二次大戦を象徴する「暗い夜」をはじめとする海外の名曲、加藤が祖国のハルビンを想って作った「遠い祖国」が披露された。ラストは加藤が心酔し、人生に大きな影響を受けたエディット・ピアフの「愛の讃歌」を熱唱。大きな拍手と興奮は収まらず、アンコールではアップテンポの「Dance Dance Dance」で盛り上がり、「百万本のバラ」で観客達と大合唱となった。

<TOKIKO’S HISTORY 花はどこへ行った 加藤登紀子コンサート>は、6月3日 山形シベールアリーナ、6月10日に神戸国際会館こくさいホール、6月16日に神奈川よこすか劇場で開催される。

加藤登紀子

撮影◎ヒダキトモコ
取材・文◎仲村 瞳

<TOKIKO’S HISTORY 花はどこへ行った 加藤登紀子コンサート>

6月3日(日) シベール アリーナ(山形)
6月10日(日) 神戸国際会館こくさいホール(兵庫)
6月16日(土) よこすか芸術劇場(神奈川)

ベストアルバム『ゴールデン☆ベスト TOKIKO’S HISTORY』

加藤登紀子 / ゴールデン☆ベスト TOKIKO'S HISTORY
2018年4月18日発売
MHCL 30506~7(CD2枚組) / 3,000円+税
[ DISC 1収録楽曲 ]
1. 時には昔の話を
2. ひとり寝の子守唄
3. 愛のくらし
4. この空を飛べたら
5. この世に生まれてきたら
6. ANAK(息子)
7. 美しい昔
8. 鳳仙花
9. 広島 愛の川
10. 今どこにいますか
11. 1968
12. あなたの行く朝
13. Now is the time
14. Révolution
15. Never Give Up Tomorrow
16. 知床旅情
17. 琵琶湖周航の歌

[ DISC 2収録楽曲 ]
1. さくらんぼの実る頃 (フランス語ヴァージョン)
2. 百万本のバラ
3. 難破船
4. 美しき五月のパリ
5. 遠い祖国
6. 暗い夜
7. 枯れた楓
8. 波止場の夜
9. 悲しき天使(遠い道)
10. 今日は帰れない~パルチザンの唄~
11. 暗い日曜日
12. リリー・マルレーン
13. 名前も知らないあの人へ
14. Père-Lachaise (ピアフに捧ぐ)
15. 3001年へのプレリュード
16. 蒼空
17. 愛の讃歌
18. 終りなき旅

自伝『運命の歌のジグソーパズル~TOKIKO’S HISTORY-Since1943』

加藤登紀子 / TOKIKO’S HISTORY-Since1943 運命の歌のジグソーパズル
2018年4月20日発売
四六判並製 280ページ / 1,620円(税込)
朝日新聞出版

関連リンク

◆加藤登紀子 オフィシャルサイト