【インタビュー】ミッツマングローブ、星屑スキャット1stアルバム『化粧室』とソロシングル「東京タワー」への現在の思いを語る

【インタビュー】ミッツマングローブ、星屑スキャット1stアルバム『化粧室』とソロシングル「東京タワー」への現在の思いを語る

2005年に結成された女装歌謡ユニット「星屑スキャット」。ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの3人のハーモニーが美しく魅惑的で、音楽性、エンターテイメント性の高さも抜群。2018年4月にリリースされた1stアルバム『化粧室』は音楽ファンの間で傑作との呼び声が高まっている。今回はミッツ・マングローブさんに、『化粧室』と星屑スキャットへの思いや、1月にソロとして6年ぶりにリリースされた新曲「東京タワー」についてお話を伺いました。

取材・文◎仲村 瞳

アルバムは発酵物であり「ごっこ遊び」の賜物。今は勝手にテクテク歩いている状態

ーーデビューから4枚のシングル発売を経て、アルバム『化粧室』は満を持して発売されたという感じですが、結成から13年して作られたからこそ良かったことはどんなことでしょうか?

とにかく、熟成はされています。私は、もともと勢いや感性だけでモノを作ったりできないタイプなんです。ただ、下書きに13年は必要なかったかもしれませんね。熟成というより、発酵物と考えればいいのいかもしれませんけど。それを作るつもりはありませんでした。1枚目のアルバムに対するイメージが明確だったので、それは良かったと思います。そのイメージと自分たちの熟成度合いがピタッとハマるかどうかっていうのは、完成してからじゃないとわからないものではありました。無理している部分はあるかもしれないですけど、1stアルバムを作るというビジョンに向かって3人で進められたことはいい体験だと思っています。

ーーミッツさんが作詞、作曲を手掛けた楽曲も多く収録されています。作詞と作曲もアルバム作りに向けて少しずつ進められていたのでしょうか?

思いついた時と時間がある時に作っていました。自分で作っちゃったほうが手っ取り早かったっていうだけの話なんです。人にお願いすると説明しなきゃいけないじゃないですか。こういうものを作ってください、とか。単純に時間的にそんな余裕がないので、自分で作って。それがたまたまアルバムに入っているという感じです。

ーー作詞・作曲家としての才能が発揮されていて素晴らしいと思います。歌詞では、「楽譜通りには鳴らないものね」(愛のミスタッチ)、「タバコが点かなくて苛立つ顔が好きよ」(降水確率)など素敵なフレーズがたくさんあります。「飲み干した缶コーラ」(涙の数だけターコイズ)といった昭和を感じさせるようなキーワードも良いですね。

うんうん、「昭和ごっこ」しているだけなんで、私は。「昭和ごっこ」というか、平成でもいいんですけどね。その都度、自分の中に溜めこんでいる、色んなごっこ遊びのネタがあるんです。それをたぶん歌とか曲作りにも反映させているというか。私は、自分の中から出てくるものとか言葉にはなんの興味もないので、何かになりきって、「ごっこ遊び」をしているという。その賜物なのかもしれません。

ーー「波の数だけターコイズ」は松田聖子さんの「Rock’n Rouge」のイメージだったというお話もありますが。

みんなで話し合って、歌入れの時は、そんなイメージでやろうかって。

ーー「コスメティック・サイレン」は、ピーターさんの「人間狩り」を聴いて、“私なりの「人間狩り」をと思って書いた”と著書「うらやましい人生」で書かれているのも印象的でした。

えっ、そんなこと書いていましたっけ? ああ、確かにそうですね。当初はそういうふうに書いちゃったんですね。

ーー今ではそうは思われていないのでしょうか?

覚えてないんですよ。私、本当に自分のことに全く興味がないんですよ。まさにリリースって「リリース」だから、その瞬間、他人事なんですね。まず、もちろん自分でそれを演奏もするし歌ったりもするから自分のものなんですけど。いまは、離乳食も終わって、勝手にテクテク歩いている状態なんで、自分の思いとしては解放されるというリリース感のほうが強いです。

ーー制作にあたり、作曲・編曲家の中塚武さんとのやりとりの中で、印象的だったことや発見だったことはどんなことでしょうか?

私の中で考えている曲順を中塚さんに伝えて相談にのっていただいて、「じゃあこことここに当てはまるもう2曲はどんな曲がいいかね」とか「スローテンポの曲が足りないね」というようなやり取りをしました。そんな中で、今回、「波の数だけターコイズ」と「降水確率」っていう曲ができたんです。このアルバムを手に取る年齢層っておそらく40代が中心だと思うので、音楽に向き合う体力みたいなものを考えました。そういう意味では、スローテンポな感じではないので聴く人にとってちょっと酷なんじゃないかと……。

ーーそうなんですね。心地よく聴かせていただきました。A面とB面を意識して作られたということですね。

はい。でもそんなのは後付けでCDにはA面B面ないですから、結局はずらっと聴かなきゃいけない。まあ、飛ばしゃいいんですけど。でも、自分の中ではそういうのも全部、私の「ごっこ遊び」の定義として、すごく大事なんです。生きる上で。なので、ここからB面っていうのはもちろん私の中であります。曲と曲の間の秒数をちょっと変えるとか、そんなことでやっていて、別にそんなものはわざわざお伝えすることでもないと思うんですけど……。そういう自己満足的な要素は、つぶさに取り入れました。それは確かに、13年と言わずとも、少なくとも4、5年はかかって作っているものなので、「後ほかにやることないだろ」って位には突き詰めています。でもそれは、作り手というか演者側のエゴだったり、ひとりよがりだったりするので、消費者に対してアピールするものかっていうことはわかりません。そこは自分の中でのおかず、餌なんで。それを感じ取っていただくのは、もちろんすごい嬉しいんですけど。

ーーそういったお話が大変面白いです。「ニュースな夜」(3rdシングル「コスメティック・サイレン」のカップリング)は泣く泣く削られたとのことですが、他にも削られた曲はあったんでしょうか?

いや、オリジナル曲ではあれだけだったんじゃないかな。そういうのも、私の中では「ごっこ遊び」なんです。“アルバムに未収録”っていうのはどのアーティストでもあるじゃないですか。それをやりたかったんです。で、10年後位にアルバムには入らなかったあの隠れたB面の名曲、みたいな扱われ方をするっていう。私の中での「ごっこ遊び」のシナリオがあって、「ニュースな夜」にはその役を担ってもらうという。

【インタビュー】ミッツマングローブ、星屑スキャット1stアルバム『化粧室』とソロシングル「東京タワー」への現在の思いを語る

ーーなるほど。曲にそういった役割があるんですね。『化粧室』は2枚組で、Disc1に13曲を、Disk2に1曲だけが収録されています。そのDisk2の収録曲で8分にも及ぶ大作「新宿シャンソン」についてもお聴きしたいんですけど、レコーディングに20時間位かかったとお聞きしたのですが、特にどういった部分に時間がかかられたのでしょうか。

ええ、もう単純にオケをバンドで撮っていて、歌入れをして全行程を1日でやったので、とにかく昼間から次の日の朝までかかりました。

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