【インタビュー】石川さゆり 新作アルバム『粋~Iki~』発売「世界に、そして若者に、日本文化の “カッコよさ”、“面白さ”を伝える!」

石川さゆり / 粋~Iki~

ニューアルバム『粋~Iki~』

こんなにカッコよくって、こんなに自由

ーーそれでは、2月19日に発売される、アルバム『粋~Iki~』についてお伺いしたいです。これまでに、日本を綴るアルバムシリーズとして、昭和の最後の年に、童謡を歌った『童~Warashi~』、平成の最後の年に民謡を歌った『民~Tami~』を発表されて、今回、令和時代のスタートで東京オリンピックの年に『粋~Iki~』を発表されます。時代の流れと、石川さんのご活動がシンクロしているように感じるのですが、このタイミングでの発表は偶然なのでしょうか?

石川「昭和の終わりの頃、子供たちの童謡っていうのがもっと音楽的に、日本人の素敵な言葉や世界観を伝えたいな、消したくないなと思って、『童~Warashi~』を作ったんですね。その時に実は、この『童~Warashi~』、民謡の『民~Tami~』、民衆の声、労働の歌、すべて民謡ですね。で、『民~Tami~』というタイトルにしました。そして、もっとそうではない、生活というか、4畳半の世界、男と女のささやき、江戸の粋、そういうものを『粋~Iki~』というアルバムにまとめようっていうのは、もう30年ちょっと前に私の中で決まっていました。『童~Warashi~』を作った時に、この3枚のタイトルも自分の中で決まっていたんです。これがすべてではないと思いますけれど、『何か日本の歌、音楽というのが作れたらいいなあ』っていう壮大な思いを持ってスタートしたんです」

ーーそれはすごいです。タイトルも30年前には決まっていたのですね。

石川「ただ、出すタイミングが難しいな、と思って。で、まあ、昭和の最後に『童~Warashi~』を作ったので、平成の終わりには、元号が変わるって聞いた時に、民衆の声、民謡をまとめようと思って。そうこうしている時に、東京オリンピックのことも浮上してきたので、『そうだ、海外からお客様がたくさん来た時に、日本をもっと世界中のみなさんに知ってもらいたい』と思いまして。『日本の歌とか音楽って何?』って言われた時に、こういうことが日本の文化であり、伝えるものを作っておきたいと思って。大仰じゃなくね。今回は、この『粋~Iki~』を作って3部作となります。完成とまではいきませんけど。日本はこんなに薄くないので、まだいっぱいいっぱいありますけど」

ーーとても意義深いことだと思います。『日本に来た海外の方に持ち帰っていただける音楽を』、というのは素晴らしいですね。

石川「それと同時に、日本の若者達にも聴いて欲しいです。小唄、端唄、俗曲というと異次元な感じがしますけど、カッコいいんだなっていう風に聴いていただけたら嬉しいです。また、ある年代の方は、これ結構、コマーシャルとかでも使われていたりするんで聴き覚えがあったりするんですよね。でもお若いからご存知ないかと……」

ーー「まっくろけのけ」のボールペンですね?

石川「そうそう! ♪これで30円まっくろけのけ~、とか。そうやって、知っとるけ、もそうですけど」

ーー耳にしたことはあるフレーズです。

石川「色々なところで日本のうたは流れてきたよねっていうのを届けたいなと思って」

ーー戦前ですと、市丸さんという、浅草の芸者さんが歌手としてレコーディングをされたり、浅草ゆめ子さんという芸者さんがレコーディングされたりとかという時代もあったのですね。

石川「芸者さんが歌い手さんになられた時代っていうのがやはりあるんですね。もちろん、市丸さんもそうですし、神楽坂はん子さんとか、赤坂小梅さんとか、たくさんそういう大先輩がいらしたんです。私もデビューした頃は皆さんご活躍でしたので、『すごいなあ、こんな歌があるんだ』って子供ながらに思いました。そういう歌を聴かせていただいた最後の世代ですね。だから、そういうものを、そのままでは時代の中に埋もれてしまいますから、今のみなさんが面白がってもらいたくて。こういう小唄、端唄、俗曲って、調べていくとすっごく言葉が、いい言葉というか、ぶっ飛んでいるんですね。こんなにカッコよくって、こんなに自由に歌を歌っていたんだと。思ったこと、感じたことを歌い飛ばしちゃうっていうのかな。笑い飛ばすんじゃなくて、歌にして歌い飛ばしちゃったっていう。今、これだけ時代がモヤモヤモヤモヤってして、『それは言ってはいけません、あれはいけません、これはいけません』って言われる中で、『歌は自由ですよ、音楽は自由ですよ、もっと思いのたけをこれくらいぶつけてもいいんじゃない?』っていうのをこんなに自在にやっていた時代があるんだっていうのをね、聴いていただきたいなと思いましたね」

ーー自由なんですね。

石川「だって、『猫じゃ猫じゃ』なんて、お妾さんが浮気をしちゃうんですね。突然だんながそこに来ちゃう。『ああ、どうしよう、隠れなさい』って言って、『誰かいたんじゃないか?』、『猫ですよ』っていう、そんなことを歌っちゃってるとかね。そんな馬鹿な、みたいな(笑)。面白いですね。落語みたいで」

ーーそうですね。艶っぽいお話も多いですし。

石川「それくらい面白いものがいっぱいあって。わかりやすく言うとですよ」

ーー面白いですね。幽霊の歌があったり、不倫がテーマだったり。

石川「まあ、不倫って言ってしまうと薄っぺらい感じがしますけど。だってお妾さんなんですから不倫も何もあったもんじゃないじゃないですか(笑)。お妾さんのところにだんなが来て、お妾さんがまた違う男の人と浮気をしてたみたいな(笑)。すごい、それくらい生きてるエネルギーを感じる。でもそれを平気に歌い飛ばしちゃってるっていうね。『梅は咲いたか桜はまだか』、あれもとても色んな意味深な歌なんですよね。まあ、みんなそんな感じで、楽しく聴いていただければ。まずは『ああ! カッコいい!』っていう所から入っていただいて、色々と『へえー! こんなこと歌ってるんだね』とか、面白がっていただけたら、『日本ってなかなかだね』って日本文化っていうのも感じていただけたらと思います」

ーーYouTubeで、石川さんが「さのさ」を歌っていらっしゃる、1991年の映像がありました。

石川「その時の『さのさ』はただ、三味線で歌っているんだと思いますけど。もっとジャズセッションにしたいなと思って、『粋~Iki~』ではピアノと三味線でやっています」

ーーこの頃からずっとステージでは歌われていたのでしょうか?

石川「いえ、そんなことはないです。ずっと歌っているわけではなくて。ただ、私がデビューした頃は、カッコいい先輩がまだお元気で歌ってらしたんですよ。それを聴けた世代なので、何かそういうものをちゃんと伝えてみたいなというふうに思いましたね」

ーー市丸さんや神楽坂はん子さんなど、今の若い世代は知らないと思います。

石川「当然です、それは。でも、そういうお座敷なんて行ったことないじゃないですか、みんなね。でもお座敷の文化っていうのもあったりして、すごいなあと思いますね」

ーー料亭の数も年々減ってきているようですね。お座敷の文化やそこで歌われる歌が伝承される機会が少なくなってしまいますね。

石川「日本人の暮らしがもう、すっかり変わってしまいましたからね。そんなことは贅沢で。この頃の人達は、『宵越しの銭は持たねえ』っていう(笑)、それくらいのことを言っていた。面白いですよね。前の1964年のオリンピックの時って、こんなに日本に外国の方達がいっぱいいなかったから、オリンピックの入場行進の時に驚いたんですよ。『うわ、すっごい、こんなにおっきい!』って。白黒なんですけど、顔の色が違う、髪の色が違う、色んな顔した人が世界中にいるんだって、私、小さい子供だったんですけど思ったんですね。でも日本人が、すごく小っちゃいくせに、堂々と律儀にそこを歩いてくるんですよ。『すごいなあ、日本って。カッコいいなあ』って思ったんですね。『これが日本人だよね』って。でもそういうものも、どんどんどんどんなくなってきて、今度の東京オリンピックでは、入場行進もどういうものが見られるんだろう? その国々の、こういう国ですよ、こういう国ですよっていうのも感じられるのかな? って思うんですけども、だからその時に関して、あれが日本人の日本人たるカッコよさだったのかな? ってふと思い出したりするんですけど。しっかり覚えてるわけじゃないけどね、本当に小っちゃかったのよ。で、おっきい人達がうわーって楽しそうに入ってくる中で、すっごい真面目に歩いて、ブレザー着て、なんか、そういう人種、国民性が作った文化って何なんだろうって、そういうものも楽しんでもらいたいですね」

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