【朝ドラ『エール』総集編放送直前コラム】大作曲家が愛した楽器:古関裕而

古関裕而

12月28日より総集編の放送が決定した、NHK連続テレビ小説『エール』。ここでは、その放送を記念して、登場人物のモデルとなった人物をコラムで紹介する。第一回は、主人公・古山裕一のモデルとなった、国民的作曲家・古関裕而。愛用した楽器や驚きのエピソードから見えて来る、天才作曲家の姿とは?

その脳内には、オーケストラのすべての楽器が存在している。

福島市古関裕而記念館の年譜によると、『1919年10歳 卓上ピアノで作曲を始める』とある。この卓上ピアノ、福島県師範学校付属小学校の音楽の授業で作曲を経験し、夢中になっていた古関に母親が買い与えたのだという。このような記述は様々な文献に多く見られる。古関の作曲家への道は、卓上ピアノという楽器によって切り開かれたとも言えるだろう。

よくよく調べてみると、この〈卓上ピアノ〉は、「卓上で楽しめるピアノ」という意味の一般名詞ではなく、どうやら商品名らしいことがわかった。大正3年(1914年)に、ヤマハ株式会社の前身である日本楽器製造株式会社が〈卓上ピアノ〉という名の商品を製造していたのだ。しかし、古関少年が使っていた卓上ピアノがそれであるかどうかは定かではない。ただ、当時、そういった楽器が広く普及していたことは事実である。他に、当時、〈卓上オルガン〉なるものも発売されている。

大正11年(1922年)、古関は家業を継ぐために旧制福島商業学校(現福島商業高等学校)に入学した。当時は常にハーモニカを携帯していて、学業より作曲に夢中になっていたという。このハーモニカという楽器も古関と縁が深い。高等学校時代には、校内弁論大会にハーモニカで音楽をつけることになった。古関はオリジナルの曲を合奏用に編曲して大勢で演奏した。これが、古関作品の初披露である。高等学校を卒業する頃には、当時、日本で有数のハーモニカバンドであった福島ハーモニカーソサエティーに入団。古関は作曲・編曲・指揮をも担当することになった。 

とはいえ、古関裕而の作品の多くは、スタジオではなく書斎で生まれている。古関は、頭に浮かんだメロディーをすらすらと楽譜に起こし、作曲をする際に楽器を使うことがなかったという。実際に、当時、異例の大ヒットとなった軍歌「露営の歌」(昭和12年/1937年)は、楽器のない汽車の中で作曲したという記録が残っている。

しかも、楽器を使わないのはメロディーの創作だけに限ったことではない。1941年、日本の海軍航空隊がイギリスの艦隊プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを撃沈した。この戦果を直ちに、ニュース歌謡として楽曲にするようにと古関に司令が下された。完成し放送までに与えられた時間は、わずか3時間。その短い間に、管楽器、金管楽器、木管楽器をはじめ、オーケストラ用の楽譜、そして歌手用の楽譜もそれぞれ書き上げたのである。つまり、古関の脳内には、オーケストラのすべての楽器が揃っていて、自在に音を奏でることができるのだ。

古関は、ラジオを通じて各音楽番組にも出演した。1947年に放送が開始されたラジオドラマ『鐘のなる丘』では、スタジオにハモンドオルガンを持ち込み、生演奏で劇中伴奏を務めた。『君の名は』『さくらんぼ大将』など、他の番組でも生演奏を行っており、古関とハモンドオルガンも非常に馴染みが深い。『鐘よ 鳴り響け』(古関裕而・著/主婦の友社)にて、ハモンドオルガンの魅力を古関は、「音色が非常に多彩豊富で変化があり、幽玄な境地さえ表現できる」と語っている。

『鐘のなる丘』では、古関の盟友の脚本家・菊田一夫の台本の遅れや音楽指定の複雑さに対応するため、それまで鍵盤楽器を習ったことがなかった古関がハモンドオルガンを担当。「私の演奏が少し巧くなると、菊田さんの音楽効果をねらう要求は、益々細かくなり、せりふの間をぬって時々刻々の変化をせねばならなく、結局、即興曲のようなことになった。(中略)2億数千万種の音色が出るというオルガンの機能の魅力にひかれ、菊田さんの指定の個所で秒差の狂いもなく場面転換できたりし、二人で満足した」(※ 『鐘よ 鳴り響け』より)という話からも、古関の天才性が感じられる。


『エール』総集編放送予定

[ BS4K ]
前編:12月28日(月) 午前9時45分~11時8分
後編:12月28日(月) 午前11時8分~午後0時36分

[ BSプレミアム ]
前編:12月29日(火) 午前7時30分~8時53分
後編:12月30日(水) 午前7時30分~8時58分

[ 総合 ]
前編:12月31日(木) 午後2時00分~3時23分
後編:12月31日(木) 午後3時28分~4時56分
ニュース中断(5分) 午後3時23分~3時28分


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参考文献
『評伝 古賀政男 青春よ永遠に』(著・菊池清麿/アテネ書房/2004年7月10日発行)
『鐘よ 鳴り響け』(古関裕而・著/主婦の友社)
『14歳からの地図 君に応援歌(エール)を 古関裕而物語』(著・大野益弘/講談社/2020年3月27日発行)
『国民音楽樹立への途 評伝 古関裕而』(著・菊池清麿/彩流社/2012年8月25日発行)
『従軍歌謡慰問団』(著・馬場マコト/白水社/2012年12月20日発行)
『日本の作曲家と吹奏楽の世界』(著・福田滋/株式会社ヤマハミュージックメディア/2012年2月18日 発行)


関連リンク

◆『エール』公式サイトによる放送スケジュール