【朝ドラ『エール』総集編放送直前コラム】大作曲家が愛した楽器:古賀政男

古賀政男

12月28日から総集編の放送が決定した、NHK連続テレビ小説『エール』。その放送記念コラム第二回では、主人公・古山裕一と同期の作曲家・木枯正人のモデルとなった、古賀政男を紹介。音楽家として初めて国民栄誉賞を受賞し、現代も愛され続ける古賀メロディの魅力とは?

大正琴、マンドリン、ギター、そして、トレモロ奏法の達人

古賀政男の代表作のひとつ「影を慕いて」(作詞・作曲/古賀政男)の2番に、「♪ギターをとりて 爪弾けば どこまで時雨 ゆく秋ぞ 振音(トレモロ)寂し 身は悲し」という歌詞がある。このトレモロ(tremolo)は、イタリア語で振動を意味する奏法のひとつ。同じ音または異なる2音を早い速度で弾き、まるで振るえているような音を奏でる。古賀メロディに漂う哀愁は、このトレモロによって強調され、聴く人々心を打つ。

古賀メロディーのファンの多くが、古賀が作家だけでなく演奏者としても卓越した能力を持っていたことを知っている。大正琴、マンドリン、クラシックギター。古賀メロディーをイメージさせる3つの楽器の演奏である。

どれも弦楽器であることには違いないが、必要な演奏テクニックはかなり異なる。マンドリンが弾けるからといって、クラシックギターを簡単にマスターできるわけではないのだ。クラシックギターは6弦。マンドリンは8弦。大正琴は2〜12弦(5〜6弦が一般的)。弦の数だけでも、似て非なるものだということが素人目にもわかる。しかし、そのどれもがトレモロによる音色に妙がある。

古賀政男音楽博物館の古賀政男のあゆみによると、『大正元年(1912年)に、母親、兄弟たちと仁川に住む長兄・福太郎の元に身を寄せる。この頃、従兄弟から大正琴をもらう』とある。当時、古賀は8歳。おそらく初めて自分の物となったこの楽器を弾くことが、辛い日々の中での救いだったという。大正琴は日本で誕生した唯一の洋楽器で、トレモロ奏法によって大正期に一大ブームを起こした。のちに、古賀は村田英雄の「人生劇場」(昭和35年)で、自らが大正琴を弾いて大ヒットに導き、再び大正琴を流行らせた。

古賀がマンドリンを手にしたのは、大正6年(1917年)。京城善隣商業学校3年生、15歳の頃だった。長兄が商売で成功し、高価なマンドリンが大阪の四兄の久次郎を通して古賀に贈られた。『自伝 わが心の歌』(古賀政男・著/展望社)によると、「その頃の我が国で、最もモダンな楽器はマンドリンであった」そうで、兄の家に居候する中学生の古賀にとっては、「気の遠くなるような値段であった。私は幾晩もマンドリンを自分が抱えている夢を見つづけていた」という憧れぶり。兄達のはからいで夢が叶った時の感動を古賀は、「私は喜びにふるえる手でトレモロをかき鳴らし、改めてマンドリンの威力を知った。これまで平凡としか思われなかった曲も、マンドリンで演奏すると、別のムードを湛えて魅惑の曲に変貌するからであった」と振り返っている。

古賀はのちに、明治大学マンドリン倶楽部を伝説にまで導いた最大の功労者となるのであった。古賀はマンドリンを「終生の友」と呼んでいたという。そんなマンドリンの最大の魅力は、トレモロにあると言っても過言ではない。そして、古賀が奏でるクラシックギターもまた、トレモロによって独特な世界観を作り出している。

それぞれ違う楽器をトレモロという高等技術を操り、日本の歌謡界をリードした演奏家としての古賀政男にも注目して、ぜひ曲を聴いてみてほしい。


『エール』総集編放送予定

[ BS4K ]
前編:12月28日(月) 午前9時45分~11時8分
後編:12月28日(月) 午前11時8分~午後0時36分

[ BSプレミアム ]
前編:12月29日(火) 午前7時30分~8時53分
後編:12月30日(水) 午前7時30分~8時58分

[ 総合 ]
前編:12月31日(木) 午後2時00分~3時23分
後編:12月31日(木) 午後3時28分~4時56分
ニュース中断(5分) 午後3時23分~3時28分


演奏家 古賀政男のすべて
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連続テレビ小説「エール」オリジナル・サウンドトラック

連続テレビ小説「エール」オリジナル・サウンドトラック Vol.2

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参考文献
『我が心の歌』(古賀政男・著/展望社/1965年4月30日発行)
『自伝 わが心の歌』(古賀政男・著/展望社/2001年4月1日発行 ※新装増補版)
『謎の森に棲む古賀政男』(著・下嶋哲郎/講談社/1998年7月18日発行)
『悲歌 古賀政男の人生とメロディ』(著・佐高信/毎日新聞/2005年8月25日発行)
『誰か故郷を…… 素顔の古賀政男』(著・茂木大輔/講談社/1979年7月16日発行)
『半生物語作品研究 古賀政男藝術大観(作品集)』(編著・宮本旅人/シンフオニー楽譜出版社/1938年11月16日発行)
『評伝 古賀政男 青春よ永遠に』(著・菊池清麿/アテネ書房/2004年7月10日発行)


関連リンク

◆『エール』公式サイトによる放送スケジュール