コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】異国の地で考える歌謡曲

コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】

初めての海外公演は、縁あってエジプトで行うことになった。国際交流基金さんに呼んで頂いてこの2月に、カイロで2公演。これからの音楽人生の上で大きな意味を持つ、濃密で有意義な時間を過ごした。

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ひとつめのステージはEGYconという、日本のカルチャー(特にアニメ)を楽しもう、という趣旨で現地の若い人たちが数年前に始めたイベント(なんと数千人もの来場者)にゲストとして参加。そしてもうひとつは、初の海外でのソロ・コンサートとして、カイロではかなり文化的とされているサーウィという地区にある半屋外のライヴ会場で、アコースティックのスタイルで演奏をした。

どちらの会場でも、現地の人々はとても興味を持って日本の歌を聴いてくれた。できるだけコンパクトにしたMCも含め、ニコニコしたり頷いたりしながら耳を傾け、曲が終わるたび、ハイ・テンションで歓声を上げ応えてくれる。行ってみて感じたのは、向こうの人たちはかなり日本を好いているということ。街に出ればすぐさま「コンニチワー」と拙いながらも日本語で陽気に話しかけてくれたり、人懐っこくホスピタリティーに溢れたところはどこか大阪人に近いものを感じた(ついでに運転がちょっぴり荒いところもとても似ている)。

後で聞いたのだけれど、エジプトで日本人のソロ・女性歌手が公演をするのは1986年の岩崎宏美さんがピラミッドをバックに歌って以来、およそ30年ぶりなのだそう(光栄です)。現地のメディアにあれこれ取材を受けたのだけれど、さて私の歌っている「歌謡曲」というものを、日本とのコンテクストが低いアラブ圏の人たちにどう説明しようか。

コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】異国の地で考える歌謡曲

ふとレポーターが持っていたマイクの被せものに印字された「BBC」の文字が目に入り、ある記事のことを即座に思い出した。2013年の「世界を変えたあなたの20曲」という見出しで曲を紹介しているもので、そこにはイマジンなどと共に、日本の曲であり、今回のソロ・コンサートでもカヴァーした「上を向いて歩こう」も世の中を変えた1曲として挙がっている。かつての戦争の敵国だったアメリカにこの曲が受け入れられることによって、日本に対するアメリカ人のミステリアスで野蛮なイメージが払拭され、このような美しい曲を生み出せる日本人は我々と何も変わりないのだという親近感を生んだ。その後、日米の距離がぐっと縮まり、2国間が今日まで友好関係にあるということはご存じのとおりである。歌が人の心を変え、さらに歴史を変えた。音楽にはそんな力がある。

坂本 九 / 上を向いて歩こう

これが実現した理由として、もちろんアメリカの音楽を下敷きにつくられているということがありながらも、忘れてはならないのが、先ずこの曲の持つメロディーや歌詞がその時代の日本をうつしだす鏡としてのまぎれもない歌謡曲だった、という事実。世界に飛び出したこの偉大な曲も、その時代に、そして人の心に、そっと寄り添うことで生まれた。

今日における歌謡曲の捉え方は様々だし、この業界においてもその定義付けはかなりバラつきがあるように思う。懐メロ?なんていう人だっている。他人がどうこうという話ではないけれど、あくまで私は、焼き直しではない、今の時代の空気をたっぷり吸い込んだ、この時代の歌謡曲をやりたいんだ。そして、音楽の力を本気で信じることが大事だ(信じたものにのみ道は拓ける、というのが去年の大河ドラマから得た教訓なのだ)。日本から遠い遠い中東の地で、今の歌謡曲をつくっていこうと決意を新たにした。

BBCオリジナル記事:20 of your songs that changed the world

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伊藤美裕

生年月日:1987年4月4日生まれ
血液型:A型
出身地:大阪府池田市
特技・趣味:バイオリン、古着屋散策
座右の銘:in dreams begin the responsibilities(責任というものは夢見ることから始まる)

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