2022年5月2日
作詞家、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、バンドマン、振付師、……そして、歌手。きらびやかな日本の歌謡界を支えてきた偉人たちを紹介するとともに、その方々が発したエネルギー溢れる言葉を伝えます。常軌を逸した言動の裏に、時代を牽引したパワーが隠されているのです! このコラムで、皆様の生活に少しでも艶と潤いが生まれることを願います。
龍二は、森川に、ドスを突きつけるように言った。
「きみ、貯金いくらあるの?」
「百二十万円くらいかな」
「じゃ、その百二十万円を全部使い切って、裏町の港でボロボロになって、そこで書いてきてよ」
(中略)
一週間後、森川は、曲を書いてきた。すばらしかった。龍二は、訊ねた。
「貯金どうした?」
「まだ残っています」
「じゃ、やめよう」
※石坂まさをと、新進ピアニスト・森川のぼるの会話
『悲しき歌姫 藤圭子と宇多田ヒカルの宿痾』(イースト・プレス/著・大下英治)より
石坂まさを
昭和16年生まれ、東京都新宿区出身。本名は澤ノ井龍二。昭和44年、沢ノ井千江児の名で作詞家デビュー。28歳で、『石坂まさを』に改名し、藤圭子をプロデュースしてミリオンセラーを記録する。それをきっかけに、プロデューサー兼作詞家というスタイルで創作活動を続ける。小林旭、五木ひろし、角川博、郷ひろみなど、多くのスターの活動を後押しし、ヒットを連発する。平成25年、長い闘病生活の末、他界。享年71歳。