コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】さり気ない人

コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】

私がMCを担当しているテレビ番組で山口百恵さんを特集するというので、最近は改めて自伝を読み直したり、楽曲をあれこれ聴いたりしていた。

百恵さんは私の「夢先案内人」だ。オーディションの予選で思いかけず口をついて出た、「現代の山口百恵になる」という言葉。導かれるように、私は本選でこの名の曲をオーディションで歌うことになり、スタ誕で明菜さんがこの曲で歌手の道を決めた瞬間の映像を繰り返し観て本番に臨んだ(結局2曲目に用意していたこの曲は歌わずじまいだったけれど)。結果、私も歌手としてデビューすることになった。

山口百恵さんを考えるとき、8年という短い期間ではあるけれど、彼女ほど歩む人生が音楽を生み、また歌に人生を彩られた歌手というのはそういないと思う。中でも特に後期、ドラマや映画でゴールデンコンビと言われた三浦友和さんとの結婚、そして引退というドラマティックな展開に、日本中の人々がワクワクしただろう。「秋桜」はより説得力を増し、「ロックンロール・ウィドウ」は未亡人という「敢えて」の内容が、かえって圧倒的な表現力を浮き彫りにした。

そう、歌のことに関して言うと、お芝居を始めてからまったく違うものになった、という印象がある。

もちろん大人になったという言い方も出来るかもしれないけれど、歌手のそれというより女優としてのアプローチで歌を作りあげている印象がある。つまり、自分から離れて歌の主人公になりきるということ(個人的な意見だけれど、歌手は自分に役を引き寄せて歌っていることが多い気がするのです)。そして素晴らしい「山口百恵」という素材を用いて、周りのスタッフの方々も斬新なアイディアを持ち込んだり、とにかく楽しんでやっているのが伝わること、これが素敵だと思う。これは歌謡曲の実験的な面白さというところにも通ずるのですが。

そういえば、私のデビューコンベンションにはプロデューサーだった酒井政利さんが来てくださり(正確には本番前に訪ねてきてくださった)、百恵さんへの思いをお話しすると「彼女も喜ぶと思います」と言ってくださったことが嬉しかったのを覚えている。のちに食事をご一緒したことがあるけれど、当時の話も聞かせてもらって、制作陣にも魅力的な人たちが集まっていたんだろうなぁということが容易に想像できて、何だかとても納得したのだった。

話を戻して、前述の番組の中で「百恵さんの魅力はどういうところにあると思う?」と共演した方に質問されたのだけれど、正直どこから切り出せばいいのか…というくらい、魅力としてあげられるいろんな側面がある。ただやはり私は、結局生き方そのものにあるのかな、と思う。いつでも、本当に大切なものがちゃんと見えていること。それを守り抜く強さがあること。

他人がどう言おうと、自分がこうだと信じることを貫くという姿勢はまっすぐ人の心を打つ。奇しくも、先日お亡くなりになった元フリーアナウンサーの小林麻央さんとも共通するところがあるように思う。意志を持って自分を、生活を、人生をつくっていくんだという強い思い。周りに流されず、自分が幸せだと感じることに素直に従うこと。他人ではない、自分を生きること。そして周りに、精いっぱいの愛を注ぐこと…同性に支持が多いというのもすごくうなずける。見えないのに、真摯に丁寧に、毎日を積み重ねていることが分かるってすごいことだと思う。これこそ百恵さんの提示する、最大のクリエイションだ。

最後に、作詞家としての一面もある百恵さんの言葉選びはセンスが光るけれど、彼女の使う「さり気ない」という言葉が私はとても好きだ。どんな言葉よりも、百恵さん自身を言い表している気がする。自然体で、相手を思う余裕があり、そっと人に寄り沿う、そんなニュアンス。「さり気ない」女に私もなろうと思う。

伊藤美裕のミユダマ 〜MIYUDAMA〜

伊藤美裕のミユダマ 〜MIYUDAMA〜

日時:8月27日(日) 開場 12:00 / 開演 12:30
会場:赤坂グラフィティ
料金:前売り 4,600円 / 当日 5,100円 +1drink
予約:スネークミュージック(03-3260-8535)

伊藤美裕

生年月日:1987年4月4日生まれ
血液型:A型
出身地:大阪府池田市
特技・趣味:バイオリン、古着屋散策
座右の銘:in dreams begin the responsibilities(責任というものは夢見ることから始まる)

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