カルト歌謡カルタ【ま】野坂昭如「マリリン・モンロー・ノー・リターン」

カルト歌謡カルタ【ま】野坂昭如「マリリン・モンロー・ノー・リターン」

いつまでも人々の心の片隅に残り続ける珍曲や迷曲たち。売れることを考えて作られたとは思えない破天荒な作品に、その時代の心の豊かさと歌謡界の度量の大きさを感じる。いまこそ、その真髄を継承すべく、魔法のカルタで拡散!

「マリリン・モンロー・ノー・リターン」

1971年発表
歌:野坂昭如
作詞:能吉利人
作曲・編曲:桜井順

野坂昭如は、歯に衣着せぬ発言と破天荒な行動が何かと話題になり、放送作家、作家、作詞家、歌手、政治家と幅広く精力的に活動した人物である。戦時中に妹を栄養失調で亡くした体験を基に書かれた小説『火垂るの墓』は、1967年『アメリカひじき』と共に第58回直木賞を受賞。1988年には高畑勲監督・脚本、スタジオジブリ制作によりアニメ映画化されている。

作曲・編曲を担当したのは作詞・作曲家の桜井順。作詞の能吉利人は桜井順のペンネームである。野坂昭如とは、三木鶏郎の“冗談工房”で知り合い、作曲家が作品を発表する“合歓ポピュラーフェスティバル’70”(ヤマハ主催で1969年~1972年の全4回開催)で披露した曲が「マリリン・モンロー・ノー・リターン」。桜井順が参加するにあたり、歌手として野坂昭如を誘ったことがきっかけだが、練習もせずに歌詞カード片手にぶっつけ本番で歌ったという。

「♪この世はもうじきお終いだ」曲中で繰り返されるフレーズ。セックス・シンボルで華やかなアメリカの象徴だったマリリン・モンローが1962年に亡くなり「アメリカはもうお終いだ」と戦勝国アメリカを皮肉っている。一方で“一億総中流化”が提唱され第2次ベビーブーム(1971~1974年)の起きていた時代に、「♪赤ん坊つくるにゃ 遅すぎる」と現代の日本の抱える少子化問題を示唆。その先見の明には驚かされる。

野坂昭如は戦後の原体験から自ら『焼跡闇市派』と称した。2015年心不全で85年の生涯を閉じる直前まで「戦争について語るために僕は生きているんだ。日本が目の前で崩れていくのが見えるようだ。もっともっと戦争の恐ろしさを伝えていかなくてはいけない」と、日本の先行きを憂いていたという。

解説・イラスト:はらめがね